映画『ブラック・クランズマン』
ジャパンプレミアレポート

町山智浩が映画に見る
今のアメリカの危機を徹底解説!
「僕はスパイク・リーに
アカデミー賞をあげたい!」

※映画本編に深く関わる内容となりますので、ご鑑賞前の方は、事前にご了承のうえお読みください。

アカデミー賞®脚色賞受賞、その他5部門ノミネートとなった映画『ブラック・クランズマン』ジャパンプレミア 試写会が、アカデミー賞授賞式直前の2月21日(木)に実施されました。上映後には、「『ブラック・クランズ マン』で描かれるのは今、アメリカで起こっている現実だ」と本作を評する映画評論家・町山智浩氏に本作を徹底 解説頂きました!本作が描く“アメリカの現実”とは?スパイク・リー監督の意図とは!?町山氏による熱い解説を ご紹介いたします!

『ブラック・クランズマン』』
ジャパンプレミア試写会イベント
【日時】
2月21日(木)21:20~
【場所】
渋谷シネクイント (〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町20-11 渋谷三葉ビル7階)
【ご登壇者】
町山智浩氏(映画評論家)

はじめに

上映後の熱気冷めやらぬ中、登場した映画評論家の町山智浩。映画に登場する黒人のアフロスタイルを真似、アフロのカツラをかぶって登場した町山は、「僕が子供のころはアフロヘアーが流行っていましたね。1970年代前半は、世界中でいろんな人種の人がアフロヘアーにしていました。それは当時、アメリカで最盛期を迎えていたブラック・パワー・ムーブメントの影響です。この『ブラック・クランズマン』はその1972年を舞台にしています」と解説を始める。
映画の冒頭、「アメリカはかつてグレートだった。」と話す白人至上主義の学者ボーリガードを演じている俳優アレック・ボールドウィンは、アメリカテレビのバラエティ番組『サタデーナイト・ライブ』で毎週ドナルド・トランプ大統領のモノマネをしているので、「つまりこれは“アメリカをもう一度グレートにする”と発言しているトランプを茶化しているシーンです」と解説。

ブラック・パワー・ムーブメント

次に、 ヒロインの女子大生パトリスについて解説。「彼女はブラックパワーに傾倒している女子大生ということで登場しますが、実在はしません。アンジェラ・デイヴィスというブラックパンサーの女性指導者がモデルです。国家権力の抑圧に対してブラック・パワー(黒人の権力)を守ろうとして始まった自警団体がブラックパンサーで、アンジェラ・デイヴィスは巨大なアフロヘアーでマスコミに登場し、黒い肌や縮れた毛こそが黒人の美しさとして誇りにしようと訴えました。そして、「ブラック・イズ・ビューティフル!」は流行語になりました。それがソウル・ミュージックの流行と混じり合って、人種を超えた世界的なトレンドになり、黒人のヘアスタイルやファッションセンスを白人以外の人々も真似したのです。そのブラック・パワー・ムーブメントの絶頂期が1972年で、この映画『ブラック・クランズマン』の事件があったのは78年ですが、72年に時代をずらしているのはそれを描くためです」 また、劇中ロンとパトリスの会話に出てくる「ブラックスプロイテーション映画」については、「70年代のブラック・パワー・ムーブメントから生まれた、黒人をヒーローにしたアクション映画です。71年に、メルヴィン・ヴァン・ピーブルスの『スイート・スイート・バック』とゴードン・パークスの『黒いジャガー』という2本の黒人監督作品によって黒人ヒーロー映画のブームが始まりました。ブームに乗って、白人たちも黒人ヒーロー映画を作ったのでブラック+エクスプロイテーション(金儲け)の合成語でブラックスプロイテーションと呼ばれるようになりました。ロンとパトリスは『黒いジャガー』(71年)と、『スーパーフライ』(72年)どっちが格好良い?と会話しますが、『黒いジャガー』の主人公はシャフトという私立探偵で、スーパーフライは麻薬の売人ですが、どちらも悪い白人たちを痛快にやっつけます」
さらに、『ブラック・クランズマン』の劇中の白人の描かれ方については「あまりにも白人がバカに描かれていると思いませんか?」と観客へ問いかける。「不公平だ、ひどすぎる、と思いませんか?僕はかわいいなと思いましたけど。バカな白人を頭が切れる黒人がやっつけるというのはブラックスプロイテーション映画の基本パターンなんです。それは、公民権運動までのアメリカ映画では黒人がバカで臆病者でずるい者として描かれていたことへの反発です。『風と共に去りぬ』に出てくる嘘つきで臆病者の黒人のメイドがその典型です。そういう描写にはジム・クロウという原型がいます。南北戦争前後に、白人の芸人が顔を黒く塗って、ジム・クロウというマヌケでずるい黒人キャラを舞台で演じていたんです。それが黒人のステレオタイプとなり、南北戦争後に南部で黒人の投票を制限する法律もジム・クロウ法と呼ばれます。黒人はバカだから選挙権を与えない、という理論です。それを打開するためにも、ブラック・パワー・ムーブメントのなかでは、頭の切れる黒人がバカな白人をやっつける物語が求められたのです」
アダム・ドライバー扮する刑事がユダヤ人であることを隠す件については、「ユダヤ系もまたKKKの敵だったからです」と説明する。「最初のKKKは黒人の投票を妨害するために結成されたので、ジム・クロウ法ができると役割を終えて消滅しました。しかし、1915年に、KKKを讃える映画『國民の創生』(1915年)が大ヒットしたことで全米でKKKが復活します。アメリカに急増した新移民に反発したからです。新移民はカトリックやギリシア・ロシア正教、それにユダヤ教徒でした。彼ら異教徒の人口増加を恐れたプロテスタントの白人たちはKKKに集まりました。反移民を掲げたKKKは正式な政党として各州でかなりの議会の議席を取りました。」

実話と脚色

実話という本作については、「管轄内で事件を起こしていないKKKを地元警察が潜入捜査すると思いますか?」と疑問を呈する。「おそらく潜入捜査はなかっただろうと私は思います。ロン・ストールワースがKKKに入会したことは事実、黒人であるロン・ストールワースが、KKKの最高幹部であるデビッド・デュークを警備したのも事実。意外にもデビッド・デュークが電話に出たのも事実。でも、クライマックスは完全に創作ですね。スパイク・リー監督は事実に脚色を混ぜて面白くなるように、自由奔放に物語を作っています。今回アカデミー賞の脚色賞にノミネートされていますが、あまりにも自由でそれが評価されたんでしょうね(※1)。時にはコメディ的だったり、時にはホラー的だったり、しかも最後はリアルの映像をぶつけていて、これはルールがない映画だと思いました」
しかし、この映画で描かれる最も重要な事実は「KKKの指導者であったデビッド・デュークがトランプを支持していること」だという。「KKKに支持された人が今のアメリカの大統領になっているんです。それが一番恐ろしいことです」

KKKと政治

加えて、「なぜ今この映画を作るのか、その背景にはやはりトランプ大統領が政権を握る社会が関係しています。 トランプ大統領自身が政治的権力を得るために白人至上主義者の味方についたのは本当の話です。2017年8月、ヴァージニア州シャーロッツヴィルで開かれたユナイト・ザ・ライト集会で、行進する白人至上主義者の一人が自動車で反対デモに突っ込み、ヘザー・メイヤーさんを轢き殺した時、トランプ大統領は「どちらの側も悪かった」と言いました。この映画ではそのスピーチも引用されています」と映画の本質を語りました。

最後に

エンドロールで使用されているプリンスの曲「Marry Don’t You Weep」については、「これはゴスペルで黒人の聖歌です。たとえ今はつらくても、ユダヤ人たちを奴隷にしたエジプトの王の軍勢が滅んだように、いつかは必ず正義がなされる時が来るよと慰める歌 でアレサ・フランクリンがずっと歌ってきた歌でした。途中漫画のようなコミカルなシーンもあったこの映画の最 後に「Marry Don’t You Weep」を流し、現実を突きつける。笑ったり泣いたり怒ったり感情の起伏の激しいスパイク・リー監督らしい映画だと思いました。今までスパイク・リーは、たくさんのヒット作を生み出しているにもかかわらず、アカデミー賞には縁がありませんでした。ハリウッドに受け入れられてこなかったんです。しかし、今年のアカデミー賞は作品賞のノミネート8作品のうち『ブラック・クランズマン』を含む黒人を題材に描いた作品が3作(※2)も入っています。マイノリティーを描いた作品がたくさんアカデミー賞に選出され、時代が大きく変わったなと思います。僕は監督賞をスパイク・リーにあげたいですね。」と近年のアカデミー賞の傾向の 変化を踏まえ、スパイク・リー監督へエールを送りました。